Far away

 エー、今晩は、臨時のお好みに従いまして、御注文のとおり妖怪談を演説することになりました。なにぶん世間では、妖怪学は私の専有物であるかのごとく評判いたしまして、いずれへ参りましても、話を頼むということになると、どうか妖怪の談をしてもらいたいと申します。先年のことであります。私がある所へ参りました。その要件というのは、すなわち哲学館大学の資金募集のために出張いたしましたのにもかかわらず、「寄付話はやめて、どうか妖怪談をして願いたい」というのでございます。そこで私は、「今回、余が参りましたのは、演説をやるために来たのではありませぬ。寄付を願うために参りましたのだから」とお断りをいたしました。ところが彼らが言うには、「ここで妖怪談をして下さるならば、全員こぞって寄付に御賛成申すが、もし話して下さらぬならば、われわれも不本意ながら、御寄付にも賛成はできませぬ」と申したことがございますが、妖怪談というものは、さほどまでにおもしろいものではありませぬから、この辺のことはあらかじめ御承知を願っておきます。

 予、かつて夢む。盗あり、戸を破りて入りきたり、秋水閃々、大いに目をいからし、予に向かいて曰く、「金を渡せ、金を渡せ」と。予、たちどころに柳生流の秘密を施し、苦もなく盗を一撃の下にくだし、ついにこれを殺したるが、ややありて盗はさかさまに歩行し、股間に頭を生じ、予と懇親を結びたり。覚めて後、深くこれを考うるに、その秋水の閃々たるは、前々日、古物商の買い出しに来たるあり。戸を破りたるは、前日ある家に遊びしに、その家の馬逸して、廏側の朽ち板を破りたるあり。「金を渡せ」とは、過日、浮連節の座に木戸銭を受け取るあり、その浮連節に柳生流を演じたるより、ついにここに連想をきたし、さかさまに歩行したるは、その日、ある所にて、越後なる倒竹の話をなしたるよりし、殺したるの連想は、かつて死刑人を巨板に載せ、首をその股前に置きたるを、解剖室において見たるに結び、懇親をなしたるは、解剖の悪臭にたえず、帰りて友人と一杯を酌みたるを、かくは転じきたりたるなり。すべて夢は、かくのごとく疑似、差異、係属等よりして、最下等なる想像世界をいわゆる夢中に浮かぶるものなれば、夢によりて吉凶をきたすがごとき妄説は、あえて取るに足らずといえども、またよくこれを判断して、その人の心内に思うところを推し、もって将来を卜することを得べしというも、やや理なきにあらざるがごとし。ここに諸家の説を請う。

この声、最初の間は夜分のみ聞こえしが、後には昼夜を分かたず聞こゆるに至りしかば、このこと、いつしか近村の一大評判となり、人々みなこれを奇怪とし、実際にこれを聴かんと欲して、その家に争い集まる者、前後踵を接し、一時は門の内外、人をもってうずむるほどなりき。かくて、この群衆のうちより、だれにても問いを発する者あるときは、怪声のこれに応じて答うること、すこぶる明瞭にして、なんぴとにもみな聞こえ、ただにその声の発源と思わるる所より四、五間の距離において、明らかに聴き取られしのみならず、隣家まで聞こゆるほどにて、その状あたかも人が談話するに異ならず。ただ、その人の言語と相同じからざるは、その音調が口笛のごとく聞こゆる点のみ。されば、これを聴ける群衆は、いかにもしてその声の発源を知らんと欲し、種々の方法をもって、その位置、方向を指定せんと試みたれども、あるいは家の内にあるがごとく、また外にあるがごとく、あるいは上に聞こえ、また下に聞こえ、右に聞こゆるかと思えば、また左に聞こえ、人々おのおのその聴くところの位置を異にし、ついにその目的を達することあたわざりき。かつ、この怪声はひとりその音調の奇怪なるのみならず、種々の怪事これに伴って現出するあり。